共創による持続可能な地域づくり

「共創による持続可能な地域づくりのためのパターン・ランゲージ」創りは、環境・エネルギー、景観・公共デザイン分野の3人の研究者からなる「共創デザイン研究会」が実施しています。それぞれがフィールドをもち、学術的な立場から実践的な活動を展開しています。この度、第一弾の成果として冊子を発行しました。
 関心を持った方、意見交換、講演、共同研究などをご希望の方は、以下のE-mailアドレスにお問い合わせください。


patternlangage@nies.go.jp

 

共創による持続可能な地域づくりのための20のパターン Ver.1

紫波町の地域づくりをもとに〜

 

私たちは、2年にわたる議論と文献・現地調査を経て本冊子を執筆、発行しました。今後も共創による持続可能な地域づくりを目指す地域の方々に有益な情報、知見、知恵、ネットワークを届け、具体的なアクションへとつなげるための支援ツールを提供していきます。本冊子、紫波町の「パターン」集はその第1弾です。

 私たちが「共創による持続可能な地域づくりのためのパターン・ランゲージ」に取り組み始めたのは、東日本大震災からの復興事業にそれぞれの立場から携わった体験を共有したことがきっかけでした。極めて短期間に政策決定、公共事業を押し進める復興事業は、様々な現状の地域課題をまざまざと浮き彫りにし、私たちはそれを各現場で目の当たりにしました。手探りながらもそのような現場の課題の解決の一助となる成果を出せればと考えています。

 

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第1弾の冊子。2020年3月末発行

 

〈共創による持続可能な地域づくりのための20のパターン〉

1. 大きな方針/ヴィジョン   Vision/Overarching Policy

2. 小さな実践と報酬   Small Steps and rewrards

3. 首長による先導   Leadership

4. 庁内の意識統一   Shared Consciousness of Local Governmer

5. 質の高い調査・研究   High Quality Studies and Research

6. 資金の流れの見える化   Making the Flow of Funds Transparent

7.地域の強みを活かす   Exploiting Community Strengths

8.視野を広げる視察   Broadening Fields of View through Inspection Tours

9.地域とのコミュニケーション   Communication with the Community

10.自治体も輪の中のひとつに   Local Governments Are Also Part of the Circle

11.萌芽的な活動を育てる   Nurturing the Grass loots Activities

12.コミュニケーションの場づくり   Creating Venues for Communication

13.地域全体の中心   Centering on the Whole Community

14.みんなに承認された柔軟な基本計画   Basic Plan Approved by Everyone

15.ポリティカルリスクの回避   Avoiding Political Risks

16.スピード感を持った意思決定のための庁内体制  Local Government Organization with a Sense of Urgency for Decision Making

17.エージェント   Agents

18.専門家会議   Expert Board

19.施設整備の順番   Priorities for Facility Development

20.成果の発信   Communicating Results

目指すもの

少子高齢化に伴う活力の低下、気候変動により激甚化する自然災害など日本の地域社会は様々な課題に直面しています。これらの諸課題が顕在化する中で、国の各省庁主導の公共事業・補助事業に依存した従来型の地域づくりの限界が明らかになりつつあります。

一方で、環境先進都市・まちづくり先進都市と呼ばれる都市・地域の中には、環境や景観を重視した地域づくりを実施し、地域の課題が克服され、新たな価値が創出されている事例も見られます。それらは、様々な主体が共創的に参画することで実現しているという共通点があります。しかしながら、こうした先進地域におけるひとつひとつの実践から得られた知見はそれぞれの地域における現場で共有されることに留まっています。こうした事例を普及させるためには、先進地域の情報、知見、経験を包括的に整理して共有する枠組みを整備することが必要です。

本冊子では、地域づくりに積極的に関与しようとする人にむけて、これまでの地域づくりのグッドプラクティスにより得られている良いアイデアを活用する手助けをしたいと考えています。環境先進都市・まちづくり先進都市のフィールド調査により、それらに特徴的に現れる要素を見出し、「パターン」としてとりまとめています。特に計画の立案プロセスに留まらず、地域を実効的に動かしていく「パターン」を記述しています。私たちは、この冊子の「パターン」が地域づくりの現場で広く参照されることを通じて、共創的な地域づくりが育まれ、日本において住みやすく心地よい地域が根ざすことを目指しています。

○「パターン」とは?

「パターン」とは、繰り返し発生する課題に対して実践されてきた課題解決のアイデアを文書化したものです。この際、各「パターン」は解決方法だけではなく、それが適用できる「状況」、明確化された「課題」、その背後に働いている力であり解決方法を導出するためのヒントとなる情報「フォース」、そして「解決方法」とそれが実行された後に実現する「結果状況」という一連のフォーマットに基づいて記述されています。そして、パターンを言語のようにつなぎ合わせることで、複合的な問題への解決を目指すものです。これは、「パターン・ランゲージ」としてデザイン理論の研究者であるクリストファー・アレグザンダーによって1970年代に提案され、これまで様々な実践分野において適用が進められてきました。
地域づくりのプロセスは動的で複雑です。また、それぞれの地域固有の文脈に依存しています。したがって、グッドプラクティスにおいて上手くいった方法を、オールインワンのパッケージとして他の地域に展開することは不可能です。グッドプラクティスにより得られている良いアイデアを活用するためには、一連のプロセスを構成要素に分解して「パターン」として記述した上で、それぞれの地域の文脈において組み上げていくことが有効です。

○使い方

  • 本冊子に収録されている「パターン」をそれぞれの地域の文脈に当てはめることで、地域づくりの取り組みを見直したり、新しい試みに着手したりする手引きになります。
  • また、本冊子の「パターン」は一つの例です。各地域で実践されている、ここにはないアイデアを見出すきっかけとしてくださればと思います。また、それらを共有いただくことを願っております。
  • そして、そのような取り組みを通じて、各地で実施されている地域づくりの取り組みを相互に繋げていくことを目指しています。

なお、本冊子では、地域づくりに積極的に関与しようとする人(特に、自治体の企画部門の職員など)の視点からパターンを記述しています。そして、手に取っていただきたい人は、地域づくりに直接的、間接的にかかわるすべての方々(以下、ステークホルダー)です。なお、対象地域は人口10,000~100,000人程度の日本国内の地方都市を想定しています。(*国内の1,721自治体のうち、959自治体(55%)が含まれる(2018年1月現在)。)人口の多い都市の「パターン」は、随時、作成し発信していく予定です。また、そうした都市でも参考になる部分があると思います。ですが、足掛かりとし、日本の典型的な人口を有する都市を対象とした本冊子を作成しています。

 

○本冊子におけるグッドプラクティスの選定とパターン抽出の方法

私たちは、地域づくりの参考となる、「パターン」創りの足掛かりとなるグッドプラクティスとして、オガールプロジェクトに代表される岩手県紫波町の取り組みに着目しました。紫波町盛岡市花巻市の中間に位置する人口3万3千人の小さな町ですが、オガールプロジェクトは交流人口104万人、雇用者数250人、地価公示価格向上9.71%、定住人口450人を生み出しています。紫波中央駅から歩いてほどなく姿を見せるオガール広場には、北欧の小都市を連想させるような魅力的で洗練された空間が広がっています。

こうした成功を聞きつけ、国内最多と言われるほど多くの地域づくり関係者がこの地を視察に訪れます。ですが、これら視察者が紫波町の成功事例を学び取り、各地域の地域づくりなどに十分に還元できているかというと、必ずしもそうはなっていないのが現状です。

この冊子は、先進事例である紫波町の取り組みの知見を、自分の地域に活かす際の参考とするため、「パターン」集として整理したものです。私たちは、①公民連携を主とした共創的プロセスを大切にしている点、②環境や景観といった長期的に重要な地域資源保全しつつ、短期的な経済性の確保を両立している点、③オガールプロジェクトの成功を発信し、町内および他地域に波及しようとしている点の3点に着目し、集中的な文献調査を実施し、要点を整理しました。その上で紫波町企画総務部企画課の鎌田千市課長、同課地域開発室の倉成絵理室長に対し、インタビュー調査を実施しました。この冊子は、これらの調査結果に基づき作成しています。

○オガールプロジェクトを中心とした紫波町の地域づくり

紫波町オガールプロジェクトの概要を説明します。紫波町は、100年後の子どもたちによりよい環境を守り伝えるべく、2000年の環境新世紀イベントにおいて「新世紀未来宣言」を発表し、町産材を活用した公共施設整備といった循環型のまちづくりに取り組んできました。一方で、1998年3月、町内3番目の駅として紫波中央駅が開業し、町は同年、駅前に公用・公共施設の集積を図るため10.7haの造成地を取得しました。しかし、町の一等地であるこの土地は10年以上にわたって遊休不動産と化していました。紫波町長(当時、藤原孝町長)は2007年3月、町議会定例会の所信表明において「公民連携」による新たな視点でのまちづくりに取り組むことを宣言しました。後にエージェントとしてオガールプロジェクトにおいて中核的な役割を担う岡崎正信氏を介して、2007年4月、紫波町東洋大学と「公民連携の推進に関する協定」を締結しました。東洋大学は、駅前町有地を公民連携手法により開発する可能性を模索する調査を実施しました。この調査結果に基づき、2009年6月に岡崎氏を中心として「町の代理人」となる第三セクター「オガール紫波株式会社」を創立しました。町はオガール紫波株式会社に民間活力誘導、デザインガイドライン策定、仮想市街地PRといった、行政が不得意とする業務を委託しました。オガール紫波株式会社は民間感覚による都市整備計画を描き、町は民間活力を誘導するために社会インフラを整備する、という役割分担のもとオガールプロジェクトがスタートしました。また、エリア開発のマスタープランを描き、それに基づいてデザインガイドラインを策定するために、オガール・デザイン会議を設立しました。デザイン会議は清水義次氏(㈱アフタヌーンソサエティ代表)に委員長を依頼し、ランドスケープや情報デザイン、建築といった各分野から第一人者が参画しました。

以上のように、オガールプロジェクトは、町有地を活用した官民の施設が立地する複合開発です。誘致によって整備された岩手県フットボールセンター、図書館と民間施設の合築によるオガールプラザ、バレーボール専用アリーナとホテルの複合施設であるオガールベース、国内最大級の木造役場庁舎、小児科やベーカリーそしてアウトドアショップなどが入居するオガールセンター、150名の定員を数えるオガール保育園、木質チップを活用した地域熱供給をするエネルギーステーション、町が直接宅地を分譲し町内指定事業者紫波型エコハウスを建築するオガールタウンと、約10年をかけてこれらの複合開発が図られてきました。